プロジェクト趣旨

● 「大学問題」の厄介さ

大学には多くの利害関係者がいます。学生、家庭、教員、職員、大学執行部、自治体、地域住民、行政、政治家、企業など様々なアクターが、大学に関係し、その方向を左右しています。また、大学は時代ごとに姿を変えてきたことで知られます。

にもかかわらず、大学についての言説は、立場ごとに分断されており、世代ごとの経験に基づく印象論に陥りがちです。このような、大学をめぐるすれ違いと印象論的コミュニケーションのことが、私たちの活動の背景にあります。

 

● 本や論文は既に関心のある人だけ!

このプロジェクトは、京都大学大学院人間・環境学研究科の院生発案型プレFD企画「総人のミカタ」と、京都大学生協の学生組織「X-academy(クロスアカデミー)」、それぞれの有志が母体となっています。いずれも、学部生向けに知的なコンテンツを提供するという点で共通しており、意気投合したのです。

上記団体のメンバーを含め、プロジェクトチームには、すでに大学教育についての書籍・論文・報告書を発表した経験のある者が多くいました(※)。そうした試みの意義は大きいにせよ、それによって得ることができる読者は、すでに「大学問題」に関心を持っている人だけです。

 

● プラットフォームとしてのゲーム

紆余曲折あって、ゲームに着目することになりました。その際、念頭にあったのは、Arranged! で知られるゲームデザイナー、ナシュラ・バラガムワラの以下の発言でした。「何であれ、問題を解決するための第一歩は、まず問題があるのだと認識して、それから問題について会話することだと思います。Arranged! は、この主題の暗い側面に覆いをかけ、ごく気楽な状況設定の下で、こうした問題を議論できるようにするためのプラットフォームを提示するものなのです」。

問題解決の第一歩は、「問題がそこにある」と共有することであり、それについて会話してもらうことだと、彼女は別のところで発言しています。気楽な仕方で、問題共有と対話を一挙に可能にするという彼女の視点が持つ魅力は、すでに大学教育についての研究/調査に従事していた私たちをゲームへと方向づけるのに十分でした。

 

文責:谷川嘉浩 2018.10.19 

 

 

※ メンバーの関わった大学についての研究活動

  • 安達千李・新井翔太・大久保杏奈・竹内彩帆・萩原広道・柳田真弘編『ゆとり京大生の大学論』ナカニシヤ出版、2013年
  • 渡邉浩一「『外圧』の分析――大学改革の諸アクターについて」『人間存在論』21号、2015年、29-43頁
  • 臼田泰如・佐野康之・瑞慶覧長空・須田智晴・寺山慧・萩原広道・渡邉浩一編『学際系学部の教養教育 報告書』京都大学大学院 人間・環境学研究科 学際教育研究部、2017年
  • 藤本夕衣・古川雄嗣・渡邊浩一編『反「大学改革」論』ナカニシヤ出版、2017年
  • 佐野泰之・萩原広道・真鍋公希・谷川嘉浩・杉谷和哉・須田智晴・近藤望「学際性を養成するプレFD:京都大学大学院人間・環境学研究科における院生発案型プレFD「総人のミカタ」をめぐって」大学教育学会 2017年度課題研究大会  2017年12月2日、 於関西国際大学
  • 真鍋公希「人間・環境学研究科における院生発案型プレFD『総人のミカタ』」『2017 京都大学のFD:京都大学の教育を、語り合う』、2017年、12頁
  • 谷川嘉浩「効果的なファカルティ・ディベロップメントの条件を考察する――デューイの反省的注意とセネットのクラフツマンシップ――」『人間・環境学』26号、2017年、107-118頁
  • 人間・環境学研究科院生による総合人間学部生向け模擬講義企画「総人のミカタ」運営委員会編『「総人のミカタ」活動報告書 2017年度前期~2018年度前期』京都大学大学院人間・環境学研究科 学際教育研究部、2018年
  • 谷川嘉浩・萩原広道・杉谷和哉・近藤真帆・須田智晴・真鍋公希・山根直子・太田奏江・金澤木綿・下平剛司・森川知彦・佐野泰之・髙橋志行「プラットフォームとしてのアナログゲーム――ゲームプレイとデブリーフィングから考える大学問題の共有」、日本シミュレーション&ゲーミング学会2018年度秋季大会 企画セッション、2018年11月18日、於熊本学園大学
  • 萩原広道・佐野泰之・谷川嘉浩・杉谷和哉・金澤木綿・下平剛司・森川知彦「大学問題を共有する新たなアプローチの提案:『学生の立場をくぐる』ボードゲームの試作」、大学教育学会2018年度課題研究大会、2018年12月1日、於長崎国際大学